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午睡の記憶

それは寝るのが嫌いだった幼い頃の記憶だ。

  

太陽の強い光が差し込む部屋で、僕は淡いブルーのタオルケットを頭からかぶって横になっている。目を開けているのか、閉じたまぶた越しに感じているのかははっきりと覚えていないが、陽光がタオルケットを透けて通って、僕だけが優しいブルーの空間にいる。

プールの底に潜った時の様な静かさの中、高いところを飛んでいるセスナの音が聞こえる。

  

僕はただ黙ってじっと過ごす。背中には布団の安心感。僕が静かに昼寝していると周囲は思っているだろうが、実は自分だけの特別な時間を過ごしているという秘密の感覚。

  

外の世界から隔絶した空間で、時間を忘れ自分の世界に浮遊するというのは、嫌な事から自分を解放する手段だったのか。

陽光とセスナの音、心地の良いものだけを外から取り入れて、自分の内側を満たしていく。今思えば、昼寝を軽やかにかわすための一種の抵抗だったのかもしれない。

  

抵抗であったとしても、これは思い返す度、美しい記憶でもある。静かで、きれいで、優しい。

  

大人になり、ずいぶんとうるさいところへ来てしまったものだ。

心はいつも生活や仕事のことでザワザワと忙しい。身体も時を刻む時計の音や虚栄心を飾り立てるジャラジャラした音にさらされて、鈍い響き方をしている。

  

僕は今でも時々、あの僕だけの「優しいブルーの空間」を思い出す。

逃げているのか、解放なのか。癒しを求めて。


by ishikawatetsuya | 2020-08-27 21:56 | 日記 | Comments(0)

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